ある患者の手を取ったときに、左手のわずかな震えがあるのに気づきました。

本人は気がついていないのですが、手を取ってじっとしていると、振動を感じたので、脳神経、小脳、末梢神経の検査をしましたが、これと行った所見は見つかりません。

どうしたものかと考えていたら、そういえば中脳が振戦と関わっているという論文を思い出して、右中脳のコントロールを高める調整をしたら、振戦が止まりました。

中脳には、赤核という神経の集まりがあります。赤核は、中脳被蓋部の腹側、動眼神経閣の横に位置する核で、脊髄に赤核脊髄路を発しています。また、小脳に赤核オリーブ路を伸ばします。赤核脊髄路は、四足歩行する動物によく発達し、赤核オリーブは霊長類に特徴的であることが発見されています。つまり、系統発生的には赤核オリーブ路を構成する小細胞性赤核が最も新しく、特に人には発達しています。

小細胞性赤核ですが、人におけるその病変は「赤核症候群」と呼ばれBenedikt症候群、Claude症候群などを含みます。Benedikt症候群は、腫瘍や血管障害が原因で、片側の赤核や上小脳脚を障害することで、同側の動眼神経麻痺と反対側の半身の不全麻痺、振戦、舞踏病やアテトーゼ様の企図運動によって増強する不随意運動が見られるものです。Claude症候群は、片側の動眼神経麻痺、対側の運動失調など小脳症状を呈し、筋緊張亢進や不随意運動は見られないというものです。

赤核障害による振戦は、Holmesによると、片側上肢主体で拮抗筋間の交代性収縮を示し、ゆっくりで規則正しく粗大なもので、安静時にもあるが企図振戦や姿勢振戦も示し、四肢のみならず舌咽頭の振戦として口蓋ミオクロニーを発現することもあります。これは、小川の三角と呼ばれる神経回路、つまり小脳-赤核-オリーブ核が形成するフィードバック回路による小脳への入力の変化が関与していると考えられます。

参考文献

大屋知徹、関 和彦 : 中脳赤核と運動機能 - 系統発生的観点から –

Spinal Sergery 28(3)258-263.2014

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です