骨盤は、仙骨と左右の寛骨が力学的に閉鎖環を構成していますが、仙腸関節及び恥骨結合といった可動構造があるため、骨盤を安定化するには能動的に閉鎖を補強するシステムが不可欠です。能動的システムは、次の筋肉が構成します。
多裂筋、腹横筋、腹斜筋の前下方部の収縮は骨盤を圧縮するナッツクラッカー効果を構成する
骨盤底筋は仙腸関節を内側から圧縮する
大殿筋、梨状筋、腹直筋、外腹斜筋、内腹斜筋、脊柱起立筋、腰方形筋は仙腸関節の圧縮を増加させる
更に局在的な安定化システムとしては、腰椎に付着するローカル筋がニュートラルゾーンでの分節間安定性を高め、そのうち多裂筋、腸腰筋、腰方形筋、脊柱起立筋、腹横筋、内腹斜筋は骨盤もコントロールしています。この局在的システムは、座位でスランプ姿勢やを取ったり、胸部を直立させると抑制されます。一方で坐骨を立てて座ると、活性化されます。
動的安定性に影響するIAP(腹腔内圧)には、骨盤底や腹壁、横隔膜が関わります。
(Thompson, O’Sullivan et al. 2003)
股関節のコントロールは、腰椎骨盤のアライメントと局在的安定化システムの活性化に重要な要素になります。負荷が小さい条件下ですと、ローカル筋の緊張活性化に低レベルのIAPとリラックスした呼吸が大事になります。高負荷の場合は、ローカル筋の活性には高レベルのIAPとアウター筋との同時収縮を行って、骨盤と胸郭を強固に連結して運動を制限することで安定化します。そのとき横隔膜がIAPの制御を介してスタビライザーとして機能します。
胸郭から腰部の筋膜は、三層構造になっています。筋膜層は、起立筋を包み込み、腹横筋と内腹斜筋後部線維、大殿筋、下部僧帽筋、ハムストリングスの中脘線維に付着します。そして縦、横、斜め方向にテンションをかけて体壁を強化します。
腹横筋は、呼吸とコアの安定化機能を担います。骨への直接的な付着を持たないのですが、持続的にテンションを与えられるようにタイプ1線維で構成されます。また、他の腹筋群から独立した神経制御を受け、骨盤底筋、多裂筋、内腹斜筋株との同時収縮で作動します。慢性腰痛患者群で機能障害がみられることが知られています。
(Hodges & Richardson, 1996; Hodges, Richardson, & Jull, 1996)
内腹斜筋は、腹筋群では最大で、その下部繊維は体壁を横断して腹横筋に神経的に連結し、仙腸関節を安定化しています。側方の線維は垂直方向に走行し、体幹屈筋及び胸郭安定の作用があります。胸腰筋膜に連結して、回転安定化とIAPのドライバーとして作用します。
横隔膜は、呼吸と安定化機能を有し、腹横筋と同時収縮することで下部胸郭を横方向に拡張します。
肛門挙筋や尾骨筋などの骨盤底筋群は、仙腸関節に閉鎖力を提供しています。とくに多裂筋との同時収縮で仙骨ニューテーションを制御して安定化させています。
(Avery & O’Sullivan 2001)
多裂筋は、脊柱分節間の前弯と仙骨のニューテーション、そしてニュートラルゾーンで最大2/3のコントロールを提供しています。多裂筋の長さは、可動域内では最小限にしか変化しないのが特徴です。
腸腰筋は多裂筋との相乗効果によって、腰椎前弯と股関節上での骨盤前方回旋をコントロールしています。腰椎の屈伸動作には分節間にある回転中心がありますが、腸腰筋は前方部分で中心軸を安定化し、遠心性収縮により後方への伸展動作をコントロールします。特に座位では重要な筋肉です。
腰方形筋は、腰仙部の側方安定化に寄与し、とくに片脚立脚時の制御に関連します。
腰椎を動的に安定化しているのは、ローカル筋とグローバル筋の同時収縮パターンです。分節間を圧縮する事前の負荷が、脊柱アーチを補強して分節の剛性と安定性を増加させます。そのために、IAPは安定性の要請と比例して増加します。