骨盤の位置は、両下肢の重量感覚と腰臀部筋感覚が情報として利用される。若年健常者は、立位、座位どちらの姿勢でも骨盤と脊柱の位置再現性に優れ、その誤差は2度程度であることが報告されている(Brumagne et al 199c.2000)。しかし疲労や腰痛はそれに影響をもたらす。それは、筋紡錘からの固有感覚が疲労や痛みで障害されるのが一因ではないかと考えられる。

反証として、腰痛患者に体幹の固有感覚に関する障害が見つからなかったという報告もあるが(Lam et al,1999; Koumantakis et al,2002)、筋や関節からの侵害受容性信号がγー運動ニューロンの活動に影響する(Pedersen et al,1998;Johansson et al, 2003)、侵害受容性信号は筋紡錘からの固有受容性情報を減少させる。(Pedersen et al,1998;Johansson et al, 2003)といった筋紡錘の感度に影響する多様なメカニズムの存在、交感神経活動の影響などを考えると、痛みと筋感覚の間には何らかの関係があると考えるのが自然である。実際に、腰痛患者では、立位、座位、四つ這い位など種々の姿勢において腰仙部の固有感覚が健常者と違い減少していていることを多くの研究が示している(Gill & Callaghan 1998;Brumagne et al,2000など)。

また腰痛患者と健常者では筋動員による脊柱安定化戦略が異なるという報告があり(van Dieen et al,2003; Reeves et al.2006)、痛みがあるとフィードフォワードを使って先行的な筋収縮を起こしてスティフネス増強を図り、ロバネスト制御を高める戦略をとるとされる(Paul W Hodges et al)。

そこで骨盤位置を適正化するには、多裂筋など安定性に関わる特定の筋に対して随意的な等尺性収縮をする訓練、抑制された筋を促通する訓練のほかにも、筋を抑制する要因となる関節機能障害や痛みを軽減させることなども必要になる。

脊柱不安定とは、生理的負荷の下で神経根圧迫などの神経学的障害や変形、疼痛といった障害や症状を防ぐための脊柱運動を制御する能力が失われた状態である(White & Panjabi,1990)。椎間関節においてニュートラルゾーンが大きくなると脊柱の安定性を低下させる。ニュートラルゾーンは、靱帯や関節包、椎間板といった受動的組織の変性や損傷で増大する(Gay et al,2008;Hasegawa et al,2008)。

力学的には、多分節において不均一な受動的組織の剛性低下は、低下した局所の曲げモーメントを増大させ不安定化を招く(Paul W Hodges et al)。神経学的には、椎骨間靭帯内の機械的受容器は関節位置のフィードバック制御に重要な機能を有する(Johansson & Sjolander 1993)。椎間板の線維輪の機械的受容器も同様の機能を果たす(Yoshizawa et al,1980)。

腰痛は力学的問題に見えるが、基本メカニズムは感覚処理の問題である可能性があり、固有感覚制御に関する問題を有する患者が、剛体化姿勢制御戦略をとることで、姿勢制御と運動制御の変動性の減少が腰痛の持続に影響を与える可能性がある(Paul W Hodges et al)。フィードバック戦略では、反射感度を高めることでフィードバック制御を強める戦略により外乱抵抗性を増強できるが、損傷や変性した組織からのフィードバックが正しいとは限らず、反射遅延が大きければ、増大した感度が不安定性を引き起こす可能性があり、フィードバック制御は腰痛にそれほど効果的ではないことが示唆される。(Paul W Hodges et al)

以上の事実を踏まえて、骨盤の位置は脊柱の安定性を妨げない位置が適切であるとし、次の項目を満たすことを要請する。

• 仙骨基底面が水平
• 正中仙骨稜が支持基底面中心と垂直位置にある
• 左右寛骨が対称位置にある
• 左右荷重が均等
• 前屈・後屈・側屈姿勢において左右対称を維持
• ランジ姿勢における仙腸関節と股関節の運動性が適正か
• 片脚立脚における左右対称を維持

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