深部筋と表在筋を協調させるには、呼吸パターンの回復からはじめる。次いで深部筋の分離収縮とその維持をするトレーニングをし、最後に呼吸と統合する。

横隔膜

LPH複合体機能障害に伴って呼吸パターンが変容し、胸郭下部の側方及び後側方への拡張に制限が生じる。その結果、胸郭の可動域制限、起立筋胸部線維や下後鋸筋、腹斜筋群の過緊張等がみられるようになる。呼吸の再教育により、横隔膜の機能が改善し、体幹と股関節の不要かつ過剰な表層筋活動が減少する。呼吸の再教育に先立ち、まず脊柱の中間位を確保することが重要である。

肋骨の側方への拡張

膝立背臥位で、体幹を中間位にする。数回の呼吸を観察して、肺尖部、下部の側方への肋骨拡張、腹部の動きが最も大きい領域を確認する。胸郭下部側方を触診し、動きの対称性と大きさを観察する。また呼気における腹部筋の活動をチェックする。胸郭の制限がある部分に手を置いたまま、患者は吸気で手の方へ空気を送り込む、あるいは胸郭を傘のようにイメージする。残った手で同じレベルの胸郭前面を触診する。呼気の最後に両手でゆっくりやさしく胸郭に圧を加え、吸気の始めのわずかに圧迫を緩めるリコイルテクニックを施す。

片側に制限がある場合は、起立筋に軽い圧を加えて吸気時に後方に置いた手の方に息を送り込むよう誘導する。呼気では前方に追い立てで胸郭の重さを感じさせるよう、後方に圧を加える。呼気の筋活動を緩めるには、「空気を出してお腹をリラックスさせます」「私があなたの体から空気をゆっくり引き出しているようにイメージして下さい」「息を吐きながら背中でテーブルの柔らかさを感じます」などの声かけをする。

患者は1日に2回から3回、呼吸パターンに注意して深呼吸をする。固有感覚フィードバックを与えるため、後側方への拡張制限が顕著なレベルに最も弱いゴムバンドで抵抗をかけて胸郭を開くイメージをしながら深呼吸を行う。あるいは、チャイルドポーズで脊柱を屈曲し、 胸郭の後方を拡張させ、胸郭下部での過剰な腹式呼吸を抑制する呼吸トレーニングをする。

肋骨後側方への拡張と起立筋のリリース

膝立背臥位で、胸郭の下に両手を差し入れ、起立筋に過緊張がある部位を触診する。片側に制限があれば、一側の手を用いる。前述のテクニックを使いながら、呼気に合わせて緊張した筋に深く沈み込むような圧を加え、「あなたの背中を床に垂らしたインクの染みだと想像して下さい。床の上にインクがどんどん広がってくイメージをしてみましょう」。呼気時に手掌全体で肋骨を後方及び側方に広げるよう意識しつつ、指先でTrp.を圧迫する。

腹横筋

体幹を中間位で容易に保持できるポジションで行う。骨盤底筋に対する「尿道を締める、膣や精巣の挙上、肛門を恥骨の方に引き寄せる」キューを使って腹横筋を共同緊張させる。

「息を吸って吐いて、次は呼吸を止めずにゆっくり少しずつ私の手からお腹が離れるようにします」

「太腿の内側を骨盤底の前の方に向かって引き上げるようにします。そしてそのまま下腹に置いてある私の指のところまで引き上げてみましょう」

「両側の骨盤の内側をつなぐようイメージし、そのラインに沿って骨盤を引き寄せてみましょう」

理想的な反応は、ASISの内側で触診している指の下でシートが貼られていくような柔らかい緊張がゆっくりと広がる。筋膨隆を感じたら、内腹斜筋の活動である。外腹斜筋が活動すると胸郭の引き下げがみられる。

多裂筋深層線維

起立筋、股関節深層外旋筋群、坐骨尾骨筋がリラックスできる骨盤中間位が楽に取れる肢位で、棘突起傍側の多裂筋の柔らかく沈み込む部分を触診する。脊柱が両側からピンと張ったワイヤーで吊り下げられているイメージで、柔らかくなった多裂筋に指を潜り込ませて吊り上げる感覚を促すよう、頭方への圧を加える。ワイヤーの下方の付着は、ASIS、恥骨上方、もしくはだいたい内側から骨盤底を通るイメージを用いる。

骨盤帯 第11章より抜粋

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