姿勢や重力などによる生体力学的な負荷が問題となって腰痛を引き起こす、とういう考えが、カイロプラクティックや理学療法など生体力学を扱う療法で広く採用されて、実際の施術にも応用され、効果があると実感することも少なくありません。

一方で、機械的なパラダイムの有効性を疑問視する向きもあります。

例えば、

体重差のある(平均13Kg)一卵性双生児を対象にMRIで腰椎を比較した結果、体重が重い方が腰椎の骨密度が高く、椎間板の状態も良好だった。仕事やスポーツによる累積的かつ反復性の生体力学的負荷が椎間板にダメージを与えるわけではない。

この体重差のある双子の事例では、遺伝子が同じであっても、体重という一種の環境要因が骨密度や椎間板に良く影響しています。ただし、調査対象が「双生児」とあるので、これが仕事やスポーツの影響がまだ少ないであろう子供を調べた結果だとしたら、「生体力学的負荷が椎間板にダメージを与えるわけではない」という結論には結び付けられないと思います。

これまで職場での身体的負荷(重量物の取り扱い、不自然な姿勢での作業など)、自動車の振動、喫煙などが椎間板変性を加速すると考えられていたが、一卵性双生児を対象とした比較研究によって身体的負荷よりもむしろ遺伝子の影響が大きいことを発見。

この事例では、遺伝的に椎間板が変性しやすいタイプとそうでないタイプがいることを示唆しています。変性しやすいタイプの人は、腰に負担をかけようがかけまいが、椎間板は変性が進むということです。

でも、身体的負荷が椎間板変性を加速しないとは書かれていないので、遺伝子より影響は少ないが、身体的負荷も影響すると考えて良いでしょう。

急性腰痛患者200名、慢性腰痛患者200名、健常者200名を対象にX線撮影で仙骨底角を比較した結果、3群間に差はなかったことから、腰部前彎と腰痛とは一切無関係なので、医師は腰部前彎に関するコメントを控えるべきと警告。

腰痛患者144名と健常者138名を対象に骨盤の歪みを厳密に測定して腰痛との関連を調べた結果、どのような臨床的意義においても骨盤の非対称性と腰痛は関連していないことが判明。骨盤の歪みが腰痛の原因というのは迷信に過ぎない。

骨盤や腰椎のアライメントの乱れは腰痛の原因となる、と考えている人は多いと思います。この研究では、全く関係がなかったという結論されています。結論から、腰椎前弯の多少は腰痛のリスク予想に使えないことが分かりました。つまり、腰痛予防のために前弯を正常にしましょう、という言説も間違いだということになります。

腰椎前弯の異常や側弯は、腰痛がある人ない人どちらにも同程度の比率で見られるようなので、だからそういうことは腰痛の要因にならないと考えます。

しかし、異常な前弯を正常化しても腰痛は改善しないということは、この結果から導かれません。前弯改善による腰痛軽減の可能性については、この論文では否定も肯定もできません。

また、腰椎前弯の減少している人に腰痛が多いという調査も存在します。

Chun SW, et al. The relationships between low back pain and lumbar lordosis: a systematic review and meta-analysis. Spine J. 2017 Aug;17(8):1180-1191.

https://www.rehabilimemo.com/entry/2017/09/07/141042

人間工学的介入によって腰部損傷を予防できるという概念を捨てる時である。我々は60年間、腰部損傷という概念と共に生きてきたが、それはあまりにも欠陥が多いために、もはや正当化することはできない。しかも腰痛を医原性にしてしまう。

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疼痛は組織の損傷によって生じるもので、その損傷がやがて機能障害や活動障害および身体障害につながる可能性があり、もし損傷が治癒すれば疼痛・機能障害・活動障害・身体障害が消失するという従来の疾患モデルは明らかに誤り。

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医学的には、ほとんどの腰痛は疼痛の原因となるような組織の損傷が見つけられない非特異的腰痛だと言われています。見つけられないというのは、「組織に異常がない」のではなく、「異常があるかどうかわからない」「なんで痛いのか分からない」という状態だということです。

カイロプラクティックには、PSBモデルと呼ばれる問題解釈の方法があります。PSBは、まさに機械論的パラダイムに基づいていますが、腰痛に対しての実績に定評があります。

こうした事実をから、生体力学は腰痛予防には役に立たないが、腰痛軽減には有効な手段の一つであると言えるのではないでしょうか。


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