カイロプラクティックは、現在主流となっている医療とは別の概念をもった専門職です。違う概念を持つことは、それはカイロプラクティックのアイデンティティとなって、他の医療と差別してくれますが、社会一般から大きな信頼を得たり、医療システムの中で立場を保持するためには、ネガティヴな要素となっています。
そこで、伝統的な概念を刷新して、新しい職業モデルの構築を試みます。
新たなモデルは、現行の医療システムでも認知される医療専門職としてのカイロプラクティックを目標とします。
新モデルでは、カイロプラクティックの伝統的な概念を、臨床的事実として患者に表現することを許しません。それは、医療専門職として与えられる地位が、カイロプラクターに特定の特権を与えると同時に、一連の倫理的義務を課すからです。
医療専門職に課される倫理的義務には、
- 真実性の倫理的義務
- 誠実性の倫理的義務
があります。患者は専門家を信頼する故に、嘘をつかないのはもちろんのこと、患者に伝えることが真実であることを保証する努力をする誠実性がなければなりません。この倫理的義務において、D.D.パーマーが論じた概念に真実である証拠がない以上は、それを臨床的事実として公言することは義務違反となり、たとえ臨床的成果があったとしてもその地位を危うくします。
こうした職業倫理的リスクを抱えているにも関わらず、カイロプラクティックが現在あるのは、20世紀後半の20年間にわたる成功体験によるものでしょう。この期間には、最初のカイロプラクティック科学ジャーナル発刊、脊椎マニピュレーションの有効性に関する最初の証拠、米国の医療機関に対する法的反トラスト勝利(Wilk裁判)を見ました。またカイロプラクティック大学に在籍する学生数の急増、および腰痛に対する脊椎操マニピュレーションの使用を支持する米国政府のレポートの発行がありました。
これらの具体的な発展に加えて、カイロプラクティックは補完代替医療(CAM)として知られるようになり、そこへの関心と利用が広く文書化された恩恵を受けました。20世紀の終わりまでに、これらの出来事と傾向の結果として、この職業は歴史上前例のないレベルで公衆の受け入れ(他の医療専門職を含む)を享受しました。医療システムの一部のアナリストは、2010年までに米国だけで10万人以上のカイロプラクターが仕事をするだろうと予測したです。
このような成功で、カイロプラクティック業界が楽観的な見通しを持ったことは否めません。そのせいで、内部にかかえる倫理的リスクを見直すことが遅れました。最近、Dr. Cooper MDにより、 カイロプラクティックの将来を脅かすさまざまな要因が特定されました(Cooper RA,2003)。
次回は、Dr.Cooperが明らかにしたリスク要因について解説します。